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在庫管理ノウハウ集

バーコード棚卸に移行する際の監査対応 ― ダブルチェックは本当に必要なのか?不安と現実的な対処法 ―

実地棚卸には、従来からタグ(カード・棚札)方式や、在庫一覧表を用いたリスト方式など、紙を使った運用が広く採用されてきました。これらの方法では、監査対応として二人一組でのダブルチェックを行っている企業も多く、過去に監査人から指摘を受け、運用手順の見直しを経験された方も少なくありません。

そのため、実地棚卸をタグ方式やリスト方式からバーコード方式へ移行する際、
「一人で入力して問題ないのか」
「ダブルチェックがなくなることで、監査で指摘されないか」
といった不安を感じるケースは非常に多く見られます。

本コラムでは、公認会計士との議論を踏まえ、バーコード棚卸における監査対応の考え方と、安心して移行するための現実的な対処法を整理します。

実地棚卸で監査対応として「二人一組」が求められてきた理由

二人一組でのリスト棚卸の様子

実地棚卸において二人一組での作業が求められてきた理由は、監査対応における内部統制の考え方にあります。監査人の目線で見ると、実地棚卸では主に次のような点が重視されてきました。

・ヒューマンエラーが発生しにくい運用になっているか
・ヒューマンエラーや不正が発生した場合でも、発覚しやすい運用になっているか
・不正を行おうとしても、実行を諦めさせるような運用になっているか

こうした観点から、二人一組での実地棚卸は、数量の数え間違いや記入ミスといったヒューマンエラーを相互に確認できる点に加え、意図的な数量操作や在庫の持ち出しといった不正を行いにくく、また発覚しやすい運用として評価されてきました。

理論上は、二人より三人、三人より四人と人数を増やすほど精度や抑止力は高まりますが、現実的なコストや作業負荷を踏まえ、「二人であれば合理的」と判断されてきました。二人一組という運用は、ヒューマンエラー防止、不正の発覚可能性、不正抑止という監査上の要請と、現場の実務負荷とのバランスの中で定着してきたものです。

このように、実地棚卸における二人一組の運用は、監査対応上の明確な意味を持ってきました。そのため、作業が効率化されるバーコード棚卸に移行する場合でも、
「一人で入力して本当に問題ないのか」
「二人一組でなくなることで、監査で指摘されないか」
といった不安が残るのは、極めて自然なことだと言えます。

バーコード棚卸が監査人の3つの目線をどのように満たすか

バーコード棚卸と棚卸責任者による確認

前章で整理したとおり、監査人が実地棚卸において重視するのは、

  1. ヒューマンエラーが発生しにくい運用になっているか
  2. ヒューマンエラーや不正が発生しても発覚しやすい運用になっているか
  3. 不正を諦めさせるような運用になっているか

という3つの観点です。
バーコード棚卸は、これらを「人数を増やす」以外の方法で満たすことができます。

①ヒューマンエラーが発生しにくい運用になっているか

バーコード棚卸では、品目の特定を人の目ではなくバーコードの読み取りで行います。そのため、品番や名称の読み間違いといった初歩的なミスが発生しにくくなります。また、数量をその場でシステムに直接入力するため、紙への記入や転記作業が不要となり、転記ミスも防止できます。

これは、二人一組で相互確認することでミスを減らしてきた従来方式に対し、そもそもミスが起こりにくい作業プロセスへ置き換えるという考え方です。

② ヒューマンエラーや不正が発生しても、発覚しやすい運用になっているか

バーコード棚卸では、誰が、いつ、どの在庫を、どれだけカウントしたのかといった作業履歴が自動的に記録されます。また、入力結果はリアルタイムで集計され、帳簿在庫との差異をすぐに確認できます。

そのため、仮に入力漏れやカウントミスがあった場合でも、差異として早期に把握でき、原因の追跡が可能です。これは、紙のリストでは後追いが難しかった点を補完する、発覚可能性を高める統制と言えます。

③ 不正を諦めさせるような運用になっているか

不正を抑止するうえで重要なのは、「できない」こと以上に、「やっても発覚する」と感じさせることです。バーコード棚卸では、作業履歴が残り、差異が即座に可視化されるため、意図的な操作を行っても後から確認される可能性が高くなります。

さらに、棚卸を行う担当者と棚卸結果を確定する責任者を分ける、高額品や主要品のみ抜き取りで再確認するといった運用を組み合わせることで、一人作業であっても、不正を思いとどまらせる十分な抑止力を持たせることができます。

「一人作業=無統制」ではない

このように、バーコード棚卸は、二人一組での実地棚卸が担ってきた「ヒューマンエラーの防止」「発覚可能性の確保」「不正抑止」という役割を、仕組みと役割分担によって代替する考え方です。

重要なのは、何人で作業するかではなく、監査人の3つの目線を満たす運用が設計されているかどうかです。

バーコード棚卸が万能ではない理由と残るリスク

一方で、バーコード棚卸であってもヒューマンエラーや不正を完全に防げるわけではありません。入力漏れ、カウント間違い、操作ミスといったエラーは依然として起こり得ます。

また、不正リスクも残ります。例えば、帳簿在庫を確認しながら棚卸を行う運用では、 在庫の窃取(せっしゅ)をしている担当者が虚偽の数量を入力することによって不正が発覚しづらいケースが考えられます。
この点は、公認会計士との議論においても明確に指摘されたポイントです。

さらに、監査立会人の心象も無視できません。
立会時の抜き取り検査でミスが見つかれば、バーコード棚卸そのものへの評価が厳しくなる可能性もあります。

「二人一組」に代わる現実的な代替統制の考え方

重要なのは、「一人作業=チェックなし」ではないことです。
二人一組に代わる合理的な代替統制があれば、一人でのバーコード棚卸も監査上認められやすくなります。
考えられる具体例としては、次のような対応があります。

• 不正抑止の観点から、倉庫部門以外のスタッフが実地棚卸を行う
• 棚卸を行う担当者と、棚卸結果を確定する責任者を明確に分ける
• 高額品や主要商品のみ、二人一組で実地棚卸を行う
• 棚卸責任者が抜き取りで再確認を行う

これらは「人数を増やす」代わりに、役割分担や事後確認で統制を補完する考え方です。

バーコード棚卸へ移行する企業が押さえるべき内部統制の視点

バーコード棚卸への移行は、「ダブルチェックをやめること」ではなく、チェックの方法を変えることです。ヒューマンエラーを起こしにくい仕組みを導入し、作業履歴や差異分析によって事後検証を可能にする。そのうえで、不正リスクに対しては人の配置や役割分担で補完する。
この考え方が整理できていれば、監査対応としても十分に説明可能です。

まとめ

バーコード棚卸は、実地棚卸の精度と効率を高める有効な手段です。一方で、「バーコード棚卸であれば、一人での入力作業であっても内部統制上、特に問題は生じない」と考えるのは危険です。従来の二人一組での実地棚卸が担ってきたヒューマンエラー防止や不正抑止の役割を、どのような統制で代替するかを整理することが重要です。

監修者

後藤 員久 (ごとうかずひさ)

公認会計士
中和有限責任監査法人代表社員

経歴

中央新光監査法人国際部(現、PwCあらた有限責任監査法人)に入社し、その後、英和監査法人 (アーサーアンダーセン、現、あずさ監査法人)に転籍し、通算12年、会計監査に従事。金融 グループに所属し、グローバル企業のサポートを経験し、その後、株式公開グループに異動、 上場準備のための資本政策や経営管理体制構築のためのコンサルティングに従事。アーサーア ンダーセンを退社後、清友監査法人に入社し、代表社員として、株式上場準備中の中堅・新興 企業の監査、金融商品取引法監査、会社法監査、その他学校法人等の非営利法人に対する法定 監査に20年間従事。