前回の記事では、
「在庫」と「履歴」は別の資産である
という考え方をご紹介しました。
在庫管理システムは、現在の在庫数だけでなく、その数量に至るまでの履歴も重要な管理対象です。
しかし、実際の現場では在庫差異が発生すると、
「とりあえず在庫調整で合わせておこう」
という対応が行われることがあります。
確かに在庫調整は便利な機能です。
しかし、使い方を間違えると、本来残すべき履歴が失われ、同じ問題を何度も繰り返すことになってしまいます。
今回は、在庫調整を使ってよいケースと、使うべきではないケースについて考えてみましょう。
目次
なぜ在庫調整を安易に使ってはいけないのか
在庫調整をすると、現在の在庫数はすぐに正しくなります。
しかし、それはあくまで「結果」が合っただけです。
その差異がなぜ発生したのかという「原因」は残りません。
例えば、
- 入荷登録を忘れたのか
- 出荷数量を間違えたのか
- 移動登録を忘れたのか
が分からなくなります。
すると、
- 同じミスが繰り返される
- 原因分析ができない
- 作業教育に活かせない
- 内部監査で説明できない
- トレーサビリティに影響する
といった問題が発生します。
在庫調整は便利な機能ですが、安易に使うと「在庫管理に必要な情報」を失ってしまうのです。
在庫調整を使うべきではないケース
在庫差異の原因が分かっている場合は、基本的に在庫調整を使うべきではありません。
まずは履歴を正しく修正することを考えます。
入庫数量を間違えて登録した場合
本当は200個入荷したにもかかわらず、20個で登録してしまったとします。
この場合、
× 在庫調整で+180個する
〇 入庫伝票を20個→200個へ修正する
が正しい対応です。
在庫調整をすると数量は合いますが、「200個入荷した」という事実が履歴から消えてしまいます。
ロケーション移動を登録し忘れた場合
AロケーションからBロケーションへ移動したにもかかわらず、移動登録を忘れていたケースです。
この場合、
× Aを減らし、Bを増やす在庫調整をする
〇 移動伝票を正しく登録する
のが基本です。
本来は「移動した」という履歴を残すべきだからです。
出庫数量を間違えて登録した場合
100個出荷したにもかかわらず、150個で登録してしまったケースです。
この場合も、
× 在庫調整をする
〇 出庫伝票を修正する
が正しい対応です。
差異の原因が分かっているのであれば、履歴そのものを直すべきです。
在庫調整を使ってよいケース
一方で、在庫調整が必要になる場面もあります。
実地棚卸で差異が確定した場合
現物を数えた結果、システム上の数量と一致しなかった。
そして原因を調査しても特定できなかった。
この場合は、現物を正として在庫調整を行います。
原因を調査しても特定できなかった場合
長期間にわたって発生した差異や、過去の履歴が残っていないケースでは、原因を特定できないことがあります。
このような場合も、最終的には在庫調整が必要になります。
システム導入時の初期在庫調整
新しい在庫管理システムを導入するときは、現在の在庫を初期在庫として登録します。
これは過去の入出庫履歴を再現するものではなく、運用開始時点の在庫を設定するための調整です。なお、こうした全在庫の調整を行う場合、システムの「棚卸」機能を利用します。
災害や破損など特殊なケース
火災、水害、破損、盗難など、通常の入出庫では表現できない在庫増減が発生することがあります。
このようなケースでは、在庫調整によって事実を記録することになります。

在庫差異が発生したときの正しい考え方
在庫差異が発生したら、次の順番で考えることが重要です。
①差異が発生した
↓
②原因は分かるか?
↓
【YES】履歴を修正する
【NO】 在庫調整を検討する
在庫差異が発生した瞬間に、
「まず在庫調整」
と考えるのではなく、
「まず原因を調べる」
という姿勢が大切です。
そして、
「履歴を直せるなら履歴を直す」
「どうしても直せないときだけ在庫調整を使う」
という順番を守ることで、運用品質は大きく向上します。

在庫調整は「便利なボタン」ではなく最後の手段
在庫調整は悪い機能ではありません。
むしろ、実務では欠かせない重要な機能です。
しかし、
在庫を合わせるための便利なボタン
として使ってしまうと、本来残すべき履歴を失い、原因分析や改善活動ができなくなってしまいます。
在庫調整とは、
原因を追っても修正できない場合に使う最終手段
です。
その考え方を持つだけでも、在庫管理の品質は大きく変わります。
そして、在庫差異を調べていくと、多くの場合、
「マイナス在庫」
に出会うことになります。
一般的には「マイナス在庫は悪いもの」と考えられがちですが、本当にそうなのでしょうか。
次回は、
「マイナス在庫は悪なのか?本当に見るべきものとは」
をテーマに、在庫マイナス警告の本当の意味について考えていきます。
在庫記録を正しく残すための3回シリーズです。
① 履歴を正しく残すことが重要
② 在庫調整は最後の手段 (現在)
③ マイナス在庫は悪なのか?(次のページ)